ホーム / 読みもの / 八尺様はどこから来たのか
ネット怪談検証都市伝説

八尺様はどこから来たのか
2008年の書き込みと、背の高い怪異の系譜

身の丈八尺の女が、生垣の上から帽子だけをのぞかせて通り過ぎる。「八尺様」は、ネットで生まれた怪談の中でも特によく知られた一つだ。最初の書き込みはいつ、どこにあったのか。語り直されるうちに何が変わったのか。古い妖怪とはどこが似ていて、どこが違うのか。残っている資料を順に読んでいく。

文 未確認生物研究所 編集部公開 2026年10月5日約12分で読めます出典 18件
茅葺き屋根の古い農家と庭
CC BY-SA 4.0岩手県遠野市の「遠野ふるさと村」にある茅葺きの農家。八尺様の話の舞台は「田舎の農家」とされるが、場所は伏せられていて特定されていない。この写真は雰囲気を伝えるためのもの。作者:663highland。CC BY-SA 4.0。 / Wikimedia Commons

この記事の要点

  • 初出は2008年8月26日、2ちゃんねるオカルト板「死ぬほど洒落にならない怖い話を集めてみない?196」のレス908〜916。同じIDが約9分で9回に分けて書き込んだ
  • 元の書き込みでは、見え方は人によって違うとされ、「白いワンピース」は語り手が見た一例にすぎない。「ぽぽぽ」としか言わない、山陰の伝承、といった説明は後から付いたもの
  • 見上げるほど背が伸びる「見越し入道」「のびあがり」、村境で悪いものを防ぐ道祖神など、古い伝承と重なる型がある。ただし2008年より前に「八尺様」という名の伝承があった記録は見つからなかった
  • 研究者は、八尺様を「田舎で土地の怪異に遭い、救い手に助けられる」型の代表例として扱い、文字から朗読・動画へと伝わり方が移る例としても論じている

012008年8月26日、オカルト板の「196スレ」

八尺様の話が最初に書き込まれた場所は、はっきりしている。匿名掲示板「2ちゃんねる」のオカルト板にあった、怖い話を集めるスレッドだ。正式な名前は「死ぬほど洒落にならない怖い話を集めてみない?」。ファンの間では略して「洒落怖(しゃれこわ)」と呼ばれる。その196番目のスレッドに、話は載った[1]。

保存されているページで確かめると、書き込みはレス番号908から916までの9つ。日付は2008年8月26日(火曜日)で、最初が午前9時45分56秒、最後が9時54分54秒だった。9つとも同じIDで、多くのレスには「1/9」「2/9」のような通し番号が付いている[1]。

およそ9分で、長い話を9回に分けて書き込んだことになる。掲示板では1回の書き込みの長さに上限があるので、先に書き上げた文章を区切って順に貼ったと考えるのが自然だ。ただし、これは記録から読み取れる推測で、書き手が誰なのか、どこまでが体験でどこからが創作なのかは分からない。

話の筋を、ごく短くまとめておく。語り手は高校生のころ、父の実家の農家によくバイクで遊びに行っていた。ある春休み、生垣の向こうを背の高い女が通り過ぎ、奇妙な声が聞こえた。それを話すと祖父母の顔色が変わり、語り手は一晩、お札を貼った部屋にこもることになる。翌朝、親類の男たちに囲まれて車で村を出た。そして十年後、ある知らせが届く――という話だ[1]。

このスレッドからは、八尺様のほかにも有名な話がいくつも生まれている。洒落怖を調べた押見皓介さんの論文は、代表的な話の初出をこう整理している。

「八尺様」が2008年の第196スレで、いずれも山奥や田舎が舞台となっている

同じ論文によれば、「くねくね」は2003年の第31スレ、「コトリバコ」は2005年の第99スレ、「ヤマノケ」は2007年の第157スレだった[8]。八尺様は、こうした「田舎の怪異」ものが積み重なったあとに現れた話だ。

初出の確認について 日付・時刻・レス番号は、インターネット・アーカイブが2023年3月に保存したスレッドのページで直接確かめた[1]。ウィキペディア日本語版も同じ日付とスレッドを挙げている[2]。スレッドの名前は回ごとに少しずつ違い(「怖い」「恐い」など)、まとめサイトによって書き方が揺れる。この記事では、保存ページの表題「死ぬほど洒落にならない怖い話を集めてみない?196」に合わせた。

02元の書き込みには何が書かれていたか

八尺様と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、「白いワンピースに帽子、背の高い女が『ぽぽぽ』と笑う」という姿だろう。ところが、元の書き込みを読むと、話はもう少し込み入っている。

語り手が見たのは、たしかに白っぽいワンピースの女だった。生垣は2メートルほどあり、その上に帽子が見えていた。声は「ぽ」の音を繰り返すような、人が出しているらしい音だった[1]。しかし、そのあと祖母が説明する「八尺様」は、決まった姿をしていない。

人によって、喪服を着た若い女だったり、留袖の老婆だったり、野良着姿の年増だったりと見え方が違う

出典[1] 2ちゃんねる オカルト板「死ぬほど洒落にならない怖い話を集めてみない?196」引用箇所を開く ↗

共通しているのは、とても背が高いこと、頭に何かを載せていること、そして気味の悪い笑い声の3つだけだとされる。祖母の説明では、その笑い声は「男のような声」とも書かれている[1]。名前の「八尺」は、一尺を約30.3センチとして約2メートル40センチにあたる。

もう一つ大事なのが、八尺様が「その土地に閉じ込められている」という設定だ。祖母によれば、八尺様はこの地区から外へは出られない。理由は地蔵だという。

その道の村境に地蔵を祀ったそうだ。八尺様の移動を防ぐためだが、それは東西南北の境界に全部で四ヶ所あるらしい。

出典[1] 2ちゃんねる オカルト板「死ぬほど洒落にならない怖い話を集めてみない?196」引用箇所を開く ↗

なぜそんなものを村にとどめておくのか。書き込みは、周りの村と何かの取り決めがあったらしい、たとえば水の権利を優先してもらうような、とほのめかしている[1]。被害は数年から十数年に一度。その代わりに村が得をする。怪異が村の暮らしの損得の中に組み込まれている点が、この話に妙な現実味を与えている。

家の戸口の床に置かれた小皿の盛り塩
CC BY-SA 3.0戸口に置かれた盛り塩。八尺様の話でも、語り手がこもる部屋の四隅に盛り塩が置かれる。作者:Show ryu。CC BY-SA 3.0。 / Wikimedia Commons

身を守る方法も細かい。お札、窓の目張り、部屋の四隅の盛り塩、小さな仏像。朝7時まで部屋を出てはいけない。夜中には身内とそっくりの声で呼ばれる。翌朝は血のつながった男たちが車の中で語り手を囲み、八尺様の目をごまかしながら村を出る[1]。どれも、民俗の本でなじみのある道具立てだ。

最後に、話は「十年後」に飛ぶ。封じていた地蔵の一つが何者かに壊された、と祖母から電話がある。しかも、それは語り手の家に通じる道のものだった[1]。閉じ込められていたものが、外へ出られるようになったかもしれない。話はそこで終わる。

03語り直しで、八尺様はどう変わったか

ネットの怪談は、まとめサイト、ブログ、動画、本へと写されていくうちに少しずつ形を変える。八尺様も例外ではない。2015年、怪談ライターがネット上の怖い話を紹介した記事は、八尺様をこう説明している。

白いワンピース姿で、しかも「ぽぽぽ」としか発声しないのがなんとも不気味だ。

同じ記事は、八尺様は「幽霊なのだそう」で、見込んだ子どもを「どこかに連れ去ってしまう」とも書いている[3]。元の書き込みと比べると、ずれが分かる。見え方は人によって違うはずが、「白いワンピース」に決まっている。身内の声をまねて呼びかけるはずが、「ぽぽぽ」しか言わないことになっている。数日で取り殺す、という話が「連れ去る」に変わっている。

ウィキペディア日本語版の記事にも、元の書き込みにはない説明が入っている。オカルト研究家・並木伸一郎さんの2010年の本を出典に、白か黒のワンピースで現れることが多く白い帽子をかぶる、山陰地方に伝わる「大女の妖怪」とされることがある、と書く。さらに、出会って助かった者は一人もいない、とも書いている[2]。

しかし、元の書き込みに地方の名前は出てこない。地名は「○市」「×村」と伏せられている。それに、語り手本人は助かって、十年後にこの話を書いている[1]。「山陰の伝承」や「助かった者はいない」は、後から付け加わった説明と見るのがよい。

一方、元の話にあった細部のうち、語り直しで落ちやすいものもある。村と周りの村との取り決め、地蔵が4か所あること、血縁の男たちで囲む理由などだ。短い紹介では「背の高い女」「ぽぽぽ」「白いワンピース」という覚えやすい3点だけが残る。話が広まるほど、怪異の姿は単純で、絵にしやすいものになっていった。

確かめられなかった点 並木伸一郎さんの本そのものは確認できなかった。そのため、「山陰地方」という説明がどこから来たのかは分からない。また、2015年の記事は「別の遭遇者が語る話」などのバリエーションがあると書いているが[3]、具体的にどの書き込みを指すのかは特定できなかった。この記事では続編や別バージョンの中身には立ち入らない。

04古い伝承との比較:見越し入道、遠野の大女、村境の神

八尺様は、まったくの無から生まれた怪異なのだろうか。日本の伝承をたどると、似た型がいくつも見つかる。まず思い浮かぶのが、背の高さそのものが恐ろしさになっている妖怪だ。

大きな木の陰から覆いかぶさるように現れる見越し入道の木版画
PD鳥山石燕『画図百鬼夜行』(1776年)の「見越」。木の陰から人の上へ覆いかぶさるように現れる。パブリックドメイン。 / Wikimedia Commons

見越し入道は、夜道に僧の姿で現れ、見上げれば見上げるほど大きくなる妖怪だ。江戸時代の怪談本や、日本各地の民俗資料に記録がある。徳島や愛媛などに伝わる「伸上り(のびあがり)」も同じ仲間とされる[4]。

見ている内に次第に背が高くなり、それを見上げれば見上げるほどさらに背が高くなってゆく。

川沿いの道に立つ、首の長い木彫りの妖怪像
CC BY-SA 4.0徳島県三好市の「妖怪街道」入口に立つ、のびあがりの像。作者:Lumi iori。CC BY-SA 4.0。 / Wikimedia Commons

伝承によっては、見上げた人の喉にかみつく、首を締めるともいう[4]。「見る」という行いそのものが危険を呼ぶ点は、八尺様とよく似ている。八尺様の話でも、語り手は「目を開けるな」「見るな」と言われ、うっかり薄目を開けてしまう場面が山場になっている[1]。

伝承文学が専門の伊藤龍平さんは、2013年に「「のびあがり」と「八尺様」」と題した論文を書いている[5]。題名のとおり、古い妖怪と八尺様を並べて論じたものだ。ただ、この論文の本文はネットでは公開されておらず、この記事では中身を確かめられなかった。

僧の姿をした大きな顔の妖怪を描いた絵巻の一部
PD佐脇嵩之『百怪図巻』(1737年)の見越入道。上半身だけが大きく描かれ、全体の背の高さは見る人の想像に任されている。パブリックドメイン。 / Wikimedia Commons

山の大女と神隠し

背の高い「女」の話もある。1910年に出た柳田國男の『遠野物語』には、岩手県遠野の猟師が山奥で美しい女を撃ち、駆け寄ってみると、とても背の高い女だったという話が載っている[6]。

身のたけ高き女にて、解きたる黒髪はまたそのたけよりも長かりき。

同じ本には、夕暮れどきに外にいる女や子どもがいなくなる、という話もある。

黄昏に女や子供の家の外に出ている者はよく神隠しにあうことは他の国々と同じ。

八尺様に狙われやすいのは「成人前の若い人、特に子ども」とされる[1]。人ならぬものが子どもを連れていく、という恐れは、神隠しの話と同じ根を持っている。

村境の地蔵は、何を守っていたのか

石段の上に建つ小さなお堂と「道祖神」と書かれた標柱
CC BY-SA 4.0斎川の道祖神のお堂。道祖神は村の境や峠、辻などにまつられてきた。作者:禁樹なずな。CC BY-SA 4.0。 / Wikimedia Commons

村の出入り口に石の神仏をまつる習わしは、実際に各地にある。道祖神は、村境や峠の道ばたにあって、外から来る疫病や悪い霊を防ぐ神とされ、地蔵の信仰とも結びついてきた[7]。

ここで面白いのは、八尺様の地蔵が逆向きに働いていることだ。伝承の道祖神は、悪いものを村の「外」で止める。八尺様の地蔵は、悪いものを村の「内」に閉じ込めている。だから、地蔵が壊れれば怪異は外へ、つまり都会に住む語り手のところへ来られるようになる。古い道具立てを借りながら、向きをひっくり返して「ネットの向こうの読み手」にまで恐怖を届かせる。これは編集部の読み方だが、八尺様が古くて新しい怪談になっている理由の一つだと思う。

05研究者は八尺様をどう見ているか

ネット上で語られ、伝わっていく話を、民俗学では「ネットロア」と呼ぶことがある。この分野で早くから研究してきたのが伊藤龍平さんだ。2016年の本『ネットロア:ウェブ時代の「ハナシ」の伝承』では、一つの章をまるごと八尺様に当てている[9]。

版元の目次によると、その第4章「「八尺様」とネットの身体について」は、「視線に基づく怪談」「体験談の人称」「文字電承から音声電承、動画電承へ」「ネットの身体と怪異表現」の4節からなる[9]。「見る・見られる」の怖さと、文字で書かれた話が朗読や動画へ移っていく流れが、論点になっていることが分かる。

民俗学者の飯倉義之さんは、2012〜2014年の研究を振り返る報告で伊藤さんの仕事を取り上げ、ネットの書き込みの性格をこう書いている。

web空間で交わされる書き込みとそこから発生する説話は、文字コミュニケーションという点で声を持たない。しかし、生起の速さと即時性は活字のコミュニケーションよりも声のコミュニケーションに類似している。

飯倉さんはこれを「疑似的な声」と呼び、昔話や世間話を集めてきた口承の研究の延長に置けるのではないか、と述べている[10]。実際、八尺様はその後、文字の枠を出て「声」になった。2025年には、動画サイトでの八尺様の朗読や語りを分析した古野敬一さんの論文が出ている[12]。

「洒落怖あるある」としての八尺様

押見皓介さんは、洒落怖の有名な話によく見られる筋書きを、こうまとめている。

「主人公が田舎で、その土地に伝わる怪異に遭遇し、霊能者や寺院の住職などの救済者によって助かる」という話である。

八尺様は、まさにこの型どおりだ。田舎の祖父母の家、土地に伝わる怪異、お札をくれる老婆、そして助かる語り手。押見さんは、こうした話がネットでは「テンプレ展開」「洒落怖あるある」と呼ばれていること、伊藤さんがネットロアの中に「伝統」を装う話があり、それが「通俗的民俗学イメージ」を使っていると指摘したことも紹介している[8]。村の協定や地蔵の封印は、まさにその「民俗学らしさ」を感じさせる部品だといえる。

ただ、押見さんの調査には意外な結果もあった。2000年と2008年ごろのスレッドに投稿された話を、有名かどうかにかかわらず数えてみると、多数派は山や田舎の話ではなかった。

「家」や「職場」という体験者にとって身近で生活圏に近い場所を舞台とする話が多い事が数量的に把握された

つまり「ネット怪談といえば田舎」という印象は、八尺様のような一部の有名な話が作ったものだ。たくさんの話の中から、田舎の因習ものが選ばれ、繰り返し読まれてきた。そう考えると、八尺様の人気そのものが、読み手の好みを映しているともいえる。

別の角度からの研究もある。地理学の鈴木晃志郎さんと于燕楠さんは、富山県を例に、大正時代の新聞の怪談とネット上のうわさを比べた。現代の怪異は種類が画一的になり、生活の場から離れた山間部へ退いている、という結果だった[13]。八尺様が「人里から少し離れた田舎」を舞台にするのも、この流れの中に置いてみることができる。

2024年には、廣田龍平さんの『ネット怪談の民俗学』も出た。書評を書いた菅豊さんは、この本の見方をこう紹介している。

著者はネット怪談を、匿名の「多くの人々が同時的に、あるいは何年も隔てて、さらに別のメディアも駆使しながら構築していった」(二〇頁)と述べる。

八尺様にそのまま当てはまる見方だ。最初の書き手は一人でも、白いワンピースの定番の姿も、「ぽぽぽ」しか言わない性格も、山陰の伝承という説明も、その後の大勢の手で付け加えられてきた。

062010年代以降:怖い怪異から、描かれるキャラクターへ

八尺様は、怪談として読まれるだけでなく、絵や物語の「キャラクター」として描かれるようになった。年の分かる資料から、その流れを拾っていく。

  • 2015年:ネットの怖い話の紹介記事で、「コトリバコ」などと並ぶ代表的な話として取り上げられる[3]
  • 2016年:宮澤伊織さんの小説「裏世界ピクニック 八尺様サバイバル」が『SFマガジン』12月号に載る[14]
  • 2021年1月:その小説を原作にしたテレビアニメの第2話「八尺様サバイバル」が放送される[15]
  • 2021年2月:ゲーム『バイオハザード ヴィレッジ』の背の高い貴婦人が、国内のファンから八尺様になぞらえられていたと報じられる[16]
  • 2021年8月:漫画家が口裂け女と八尺様の出会いを描いた漫画がSNSで話題になる[17]
  • 2026年5月:八尺様と少年の交流を描くゲームのストアページが公開される(7月発売予定とされた)[18]

アニメの紹介文は、作品を「くねくね」「八尺様」「きさらぎ駅」などネットロアに出てくる怪異が現れる世界の話と説明している[15]。ネット怪談そのものが、作品の世界観を支える共通の知識になっていたことが分かる。

2021年の漫画について、作者の赤信号わたるさんは取材にこう答えている。

最近八尺様が漫画家やイラストレーターさんの間でややブームになっていて

キャラクターとして描かれる八尺様は、ほぼ例外なく「白いワンピース、つばの広い帽子、とても背の高い女性」の姿をしている。これは、元の書き込みで語り手がたまたま見た一つの姿だ。前の章で見たように、話が短く紹介されるたびに、この姿だけが残っていった。描きやすく、ひと目で分かる形があったことが、キャラクター化を後押ししたと考えられる。

2026年のゲームでは、八尺様は「子どもをさらう怪異」でありながら、主人公の少年が特別な気持ちを抱く相手として描かれるという[18]。恐ろしいから近づいてはいけない存在が、どこか惹かれてしまう存在へと変わっている。

「2010年代のブーム」について 八尺様のキャラクター化は2010年代に始まったとよく言われる。だが、年代のはっきりした一次資料で確かめられたのは、2015年以降の記事と2016年の小説からだった。SNSやイラスト投稿サイトでいつ描かれ始めたのかは、この記事では確かめられなかった。2021年の漫画家の言葉も「最近」「やや」ブームという言い方にとどまっている[17]。

07よく言われる説を確かめる

八尺様について語られる「説」を、ここまでの資料に照らして並べた。

説根拠評価
実際にあった出来事の報告である書き手は匿名で、地名も伏せられている。裏づけになる記録は見つからない。9分で9回の連続投稿は、書き上げた文章を貼ったものと見られる[1]確かめられず
昔からある地方の伝承「八尺様」がもとになっている2008年より前に「八尺様」という名の伝承を記した資料は見つからなかった。CiNiiで探せた論文はどれも2013年以降のもの[5]確かめられず
山陰地方に伝わる「大女の妖怪」である2010年の本を出典にした説明で、元の書き込みには地方名がない[2]確かめられず
見越し入道やのびあがりなど、背の高い怪異の型を受け継いでいる見上げるほど高い・見ると危ないという特徴が重なる。研究者も両者を並べて論じている[4]有力
「洒落怖」によくある、田舎の因習ものの型に沿った話である田舎で土地の怪異に遭い、救い手に助けられるという筋そのもの[8]有力
白いワンピースと「ぽぽぽ」が八尺様の決まった姿である元の書き込みでは見え方は人によって違い、身内の声もまねる[1]否定的

八尺様は、2008年8月26日の朝、匿名の誰かが9回に分けて書き込んだ話から始まった。その話は、見上げるほど大きな妖怪や、村境の神、神隠しといった古い型を借りて組み立てられていた。そして、読み手が語り直すたびに姿は単純になり、怖い怪異は描かれるキャラクターにもなった。

一人の書き手が書いた話が、多くの人の手で形を変えながら受け継がれていく。研究者が八尺様に注目するのは、それが「いまも生まれ続けている伝承」の様子を、記録の残る形で見せてくれるからだろう。生垣の上を帽子が動いていく、あの一場面の怖さは、書き手の名前が分からないまま、いまも読まれ続けている。

出典・参考資料

  1. 2ちゃんねる オカルト板「死ぬほど洒落にならない怖い話を集めてみない?196」レス908〜916(2008年8月26日). インターネット・アーカイブ(2023年3月9日保存分). https://web.archive.org/web/20230309095607/https://hobby11.5ch.net/test/read.cgi/occult/1217949163/908n-916(閲覧 2026-10-05)↩
  2. ウィキペディア日本語版「八尺様」(2026年9月23日版, oldid=111120247). https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%85%AB%E5%B0%BA%E6%A7%98&oldid=111120247(閲覧 2026-10-05)↩
  3. 松本ミゾレ「「コトリバコ」「ひとりかくれんぼ」「八尺様」 怪談ライターが選ぶネット上の怖い話ベスト5」キャリコネニュース, 2015年8月14日. https://news.careerconnection.jp/entame/15301/(閲覧 2026-10-05)↩
  4. ウィキペディア日本語版「伸上り」(のびあがり). https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%B8%E4%B8%8A%E3%82%8A(閲覧 2026-10-05)↩
  5. 伊藤龍平「「のびあがり」と「八尺様」:電承説話の身体と妖怪」『世間話研究』21号, 世間話研究会, 2013年, 22–39頁(CiNii Research の書誌情報). https://cir.nii.ac.jp/crid/1523388080993192704(閲覧 2026-10-05)↩
  6. 柳田國男『遠野物語』1910年(青空文庫版). https://www.aozora.gr.jp/cards/001566/files/52504_49667.html(閲覧 2026-10-05)↩
  7. ウィキペディア日本語版「道祖神」. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%93%E7%A5%96%E7%A5%9E(閲覧 2026-10-05)↩
  8. 押見皓介「ネットロアで語られる場所を巡る一考察:いわゆる「洒落怖」の実態把握を通して」『常民文化』45号, 成城大学常民文化研究会, 2022年, 1–29頁. https://seijo.repo.nii.ac.jp/records/6228(閲覧 2026-10-05)↩
  9. 伊藤龍平『ネットロア:ウェブ時代の「ハナシ」の伝承』青弓社, 2016年(版元ドットコムの書誌・目次). https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784787233981(閲覧 2026-10-05)↩
  10. 飯倉義之「口承 二〇一二〜二〇一四、震災と総括の時期」『日本民俗学』293号, 日本民俗学会, 2018年, 78–89頁. https://doi.org/10.34560/nihonminzokugaku.293.0_78(閲覧 2026-10-05)↩
  11. 菅豊「書誌紹介 廣田龍平著『ネット怪談の民俗学』」『日本民俗学』321号, 日本民俗学会, 2025年, 139頁. https://doi.org/10.34560/nihonminzokugaku.321.0_139(閲覧 2026-10-05)↩
  12. 古野敬一「ネットロアの音声表現:「八尺様」を中心にした動画サイトの分析」『口承文藝研究』48号, 日本口承文藝學會, 2025年, 61–76頁(CiNii Research の書誌情報). https://cir.nii.ac.jp/crid/1520305267708941312(閲覧 2026-10-05)↩
  13. 鈴木晃志郎・于燕楠「怪異の類型と分布の時代変化に関する定量的分析の試み」E-journal GEO 15(1):55–73, 2020年. https://doi.org/10.4157/ejgeo.15.55(閲覧 2026-10-05)↩
  14. 宮澤伊織「裏世界ピクニック 八尺様サバイバル」『SFマガジン』57巻6号(2016年12月号), 早川書房, 228–253頁(CiNii Research の書誌情報). https://cir.nii.ac.jp/crid/1520010380047996160(閲覧 2026-10-05)↩
  15. 「冬アニメ『裏世界ピクニック』第2話「八尺様サバイバル」のあらすじ&場面カットが到着!」アニメイトタイムズ, 2021年1月8日. https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1610068424(閲覧 2026-10-05)↩
  16. 「『バイオハザード ヴィレッジ』巨大貴婦人ドミトレスク夫人の身長が明らかに。予想されている以上にデカかった」AUTOMATON, 2021年2月2日. https://automaton-media.com/articles/newsjp/20210202-150827/(閲覧 2026-10-05)↩
  17. CHIGAKO「【都市伝説】口裂け女VS八尺様!? 道端でばったり出くわした女妖怪、その意外な結末とは?」マイナビニュース, 2021年8月3日. https://news.mynavi.jp/article/20210803-wadai5/(閲覧 2026-10-05)↩
  18. 山口弘剛「ネット怪談「八尺様」をハートフルホラー化 「Hachishakusama | 八尺様がいた夏休み」Steam公開」おたくま経済新聞(ニコニコニュース転載), 2026年5月18日. https://news.nicovideo.jp/watch/nw19307396(閲覧 2026-10-05)↩

この記事は、公開されている資料をもとに編集部が書いています。引用した文章と画像は、出典と引用元へのリンクを添えています。英語の資料の訳は当サイトによるものです。誤りに気づいた方は、目撃情報フォームからお知らせください。