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ネット怪談検証都市伝説

ひとりかくれんぼ
実況スレから生まれた「降霊遊び」の記録

深夜の家で、ぬいぐるみを相手に、ひとりでかくれんぼをする。すると家の中で何かが起きる。2007年の春、匿名掲示板で始まったこの「遊び」は、話として読まれるより先に、実際にやって実況するものとして広まった。最初の書き込みはいつだったのか。「元は関西の遊び」「自作自演だった」という話は確かめられるのか。昔のコックリさんや、人形をめぐる民俗とどこが似ていて、どこが違うのか。掲示板の過去ログと、研究者の文献を中心に読み直す。この記事では、やり方は一切書かない。

文 未確認生物研究所 編集部公開 2026年10月6日約14分で読めます出典 16件
朱色の柵の向こうに、着物姿の日本人形がたくさん並んでいる
CC BY-SA 4.0和歌山市の淡島神社に並ぶ人形(2009年撮影)。撮影:Motokoka。CC BY-SA 4.0。 / Wikimedia Commons

この記事の要点

  • 広まったきっかけは、2007年4月18日に2ちゃんねるのオカルト板に立った「【降霊】検証実況スレ本館【交霊】」。名前はスレ立ての時点で挙がっていて、4月21日の未明に、ある投稿者がやり方を書き込み、実況を始めた
  • 最初のスレッドは約4日で1000件の書き込みを使い切り、6月中旬には25本目まで進んだ。投稿者は「先輩から聞いた話」だと書いたが、それより前の記録は見つからなかった
  • 25本目のスレには「最初の実況は自作自演だった」という書き込みがある。ただし本人だと証明する印がなく、真偽は確かめられない
  • コックリさんと同じ「降霊遊び」として語られた。人形に身代わりを託す民俗や、触れたものがつながり続けるという呪術の考え方に似た点はあるが、元になったことを示す資料はない
  • 研究者は、話を「演じる」タイプの伝説(オステンション)や、掲示板の「釣り師」の戦略という視点で論じている。暗い家で刃物を持つ、物を燃やすなど、現実の危険がある

01どんな「遊び」として語られたのか

ひとりかくれんぼは、2007年ごろからネットで広まった「降霊術」の一つとされる話だ。日本語版Wikipediaは、日本の近代の怪談、都市伝説の一つとして項目を立て、コックリさんと同じく一種の降霊術とされる、と書いている[3]。

筋だけを短く言えば、こうなる。深夜、家にひとりでいる人が、ぬいぐるみを「もう一人の参加者」に見立てて、かくれんぼをする。すると、誰もいないはずの家で物音がしたり、テレビの様子が変わったり、気配を感じたりする。最後に決まった形で「終わらせる」ことになっている。

この記事では、そのやり方は書かない。掲示板や事典的なサイトには細かい手順が出回っているが、ここで扱いたいのは手順ではなく、この話がいつ、どこで、どのように広まり、何と比べられ、研究者にどう読まれてきたかという記録のほうだ。あとで見るように、この遊びには刃物を持って暗い家を動く、物を燃やして処分するといった、霊とは関係のない現実の危険がある。やり方の紹介は、それをすすめることにつながってしまう。

もう一つ、ひとりかくれんぼには、ほかのネット怪談とはっきり違う点がある。くねくねや八尺様は、誰かが体験した「話」として書き込まれ、読まれた。ひとりかくれんぼは、読む人が自分の家で「やってみる」ことを前提にした話だった。話の主人公は、画面の前にいる読者自身になる。

022007年4月、オカルト板の「実況スレ」

日本語版Wikipediaは、広まったきっかけを次のように書いている[3]。

2007年4月18日、大型電子掲示板「2ちゃんねる」のオカルト超常現象板に詳細な方法が紹介され、さらにこれを実行したことで様々な怪奇現象に遭遇したといった体験談が書き込まれ

この記事では、そのスレッドの過去ログを直接たどった。2ちゃんねるのオカルト板(オカルト超常現象板)に「【降霊】検証実況スレ本館【交霊】」というスレッドが立ったのは、2007年4月18日の午後1時16分だ。最初の書き込みは、スレッドの目的をこう書いている[1]。

スレタイ通り危険を顧ない勇者がこれらの遊びを検証、実況するスレ

(スレッドの題のとおり、危険をかえりみない勇者が、これらの遊びを検証し、実況するスレッド)

「これらの遊び」として並んでいたのは、コックリさん、守護霊さん、分身さん、エンジェル様、そして「一人り隠れんぼ」だった。つまり、ひとりかくれんぼの名前はスレッドが立った時点ですでに挙がっていて、コックリさんの仲間の「危険な遊び」の一つとして扱われていた[1]。日本語版Wikipediaの「4月18日に詳細な方法が紹介され」という書き方は、スレッドが立った日付と、方法が書き込まれた日付をまとめたものと考えられる。

4月21日の未明、実況が始まる

動きがあったのは3日後だ。4月21日の午前2時過ぎ、名前の代わりに「トリップ」と呼ばれる本人確認用の記号を付けた投稿者が、一人隠れんぼを一緒にやらないかと参加者を募った。そして、用意するものとやり方を何回かに分けて書き込み、自分も始めた。「参」と名乗る人が加わり、二人はそれぞれの家から、携帯電話で状況を書き込んでいった[1]。

書き込みは、物音がする、テレビの音が消えた、誰かが部屋にいるようだ、と緊迫していく。見ている側は「こえー」「参さんガンバれ」と声をかけ、投稿者は参加者に落ち着くよう呼びかける。掲示板が、ひとつの怖い出来事をみんなで見守る「中継」の場になった。2004年の「きさらぎ駅」と同じ、実況という形だ[1]。

このスレッドの1000件の書き込みは、4月22日の朝6時台に使い切られた。立ってから約4日、実況が始まってからはわずか1日あまりだ。次の夜には、名前に印を付けた何人もの参加者が、それぞれの家から同時に挑戦している[1]。続きのスレッドは次々に立ち、6月17日には「part25」が立った[2]。2か月足らずで25本を超えたことになる。

「先輩から聞いた話」

投稿者は、この遊びをどこで知ったのかと聞かれて、友人づきあいの先輩から聞いた話で、先輩が少しねじ曲げて教えたのかもしれない、と答えている。人形の中にそこらの霊を呼び込む遊びだと聞いた、とも書いた。別の住人は、投稿者が関西の言葉で書いていることに触れ、「関西で有名なんだ」と書き込んでいる[1]。

日本語版Wikipediaにも、元は関西地方や四国地方でコックリさんと共によく知られた遊びだったといわれる、という記述がある。ただし、その典拠は2008年に出たDVDだ[3]。この調査では、2007年4月より前に「ひとりかくれんぼ」や「一人隠れんぼ」の名前で書かれた記録は見つからなかった。「先輩から聞いた」「関西で有名」は、どちらも掲示板の中での言葉で、確かめる手段がない。

日付と資料の事情について。日本語版Wikipediaは「2007年4月18日に詳細な方法が紹介され」と書くが、過去ログでは18日はスレッドが立った日で、名前が挙がっただけだ。やり方が書き込まれ、実況が始まったのは21日の未明である[1][3]。この記事は過去ログに従った。過去ログは5ちゃんねるの過去ログ倉庫で閲覧したもので、当時の画面そのものではない。

03「釣りでした」という書き込み

流行のさなか、話はもう一度ひっくり返る。6月18日の深夜、part25のスレッドに、最初の実況は自作自演だった、という書き込みが現れた。最初のスレッドを立てた人も、実況に加わった「参」も、たびたび出てきた名無しも同じ一人で、携帯電話を3台使っていた。自分は一人隠れんぼを一度もしていない。広めた理由は暇つぶし、小遣い稼ぎ、話題作りだった。遊びそのものは、兵庫県の南東部あたりにある術式を作り変えたものだ――という内容だ[2]。

ネットのまとめや考察では、この書き込みを根拠に「ひとりかくれんぼは自作自演から始まった」と書かれることが多い。けれど、この書き込みにはトリップが付いていない。最初の投稿者と同じ人だと示す印がないのだ。すぐ下には、こんな反応が付いている[2]。

コテ鳥を公開しない釣り宣言にはなんの意味も無いな

(名前やトリップを示さない「釣りでした」宣言には、何の意味もない)

「釣り」とは、うそや作り話で人を引っかけて反応を楽しむことを指す掲示板の言葉だ。最初の実況が釣りだったのかもしれないし、「釣りでした」という書き込みのほうが釣りだったのかもしれない。過去ログから言えるのは、どちらも確かめられないということだけだ。この記事でも、自作自演説は「そういう書き込みがあった」という以上には扱わない。

研究者が注目した「釣り師」

この、本当かうそか分からない書き込みが人を動かしていく仕組みに注目した研究がある。社会学者の伊藤慈晃は、2014年に一橋大学に出した修士論文で、2ちゃんねるのひとりかくれんぼを事例に、オンラインのコミュニティの決まりがどう生まれ、どう崩れるかを論じた[5]。2021年には『世間話研究』に、ひとりかくれんぼを対象にした論文「オンライン空間の宗教的体験談における「釣り師」の戦略」を書いている[4]。

民俗学者の三隅貴史は、日本の民俗学がネットをどう研究してきたかを整理した2022年の論文で、伊藤の論文を、アメリカの民俗学のレジェンドトリッピングやスレンダーマンの研究を取り入れて「釣り師」を論じたものとして紹介している[6]。ひとりかくれんぼは、日本のネット怪談を、海外の「現代伝説」の研究と結びつけて考える手がかりにもなっている。

資料の事情について。伊藤慈晃の2021年の論文と2014年の修士論文の本文は、この記事の調査では読めていない。題名と掲載誌は CiNii Research と researchmap で確かめた。論文の中身についての記述は、三隅2022の紹介によるもので、それ以上の内容は書いていない[4][5][6]。

04コックリさんの「仲間」として

最初のスレッドで、ひとりかくれんぼはコックリさんと同じ列に並べられていた[1]。この二つを比べると、ひとりかくれんぼの新しさが見えてくる。

コックリさんは、西洋の「テーブル・ターニング」に起源を持つとされる占いだ。何人かが机や硬貨に手を添えると、それがひとりでに動いて質問に答える。日本では19世紀の末に流行した[8]。

19世紀の居間で、正装した男女が円いテーブルを囲み、両手を天板に置いている版画
PDテーブル・ターニングの様子。フランスの週刊誌『イリュストラシオン』1853年の挿絵。画:Ange Louis Janet。パブリックドメイン。 / Wikimedia Commons

明治の哲学者、井上円了は、この流行を同時代に調べて『妖怪玄談』を書いた。伊豆の下田から各地の港を伝って広まったこと、信じすぎて家族を離縁した人がいたことなどを記録している。流行が社会の問題になっていた様子も書き残した[9]。

余が聞くところによるに、大阪府下にては一時大いに流行したるも、その弊害したがって生ずるを見、警察署よりこれを禁じたりという。

着物姿の人々が、三本の棒で支えた台を囲み、手を添えている明治期の図
PD「コツクリ様といふ遊戯」。宮武外骨『奇態流行史』(1922年)より。竹の脚に蓋を載せた台に、数人が手を添えている。パブリックドメイン。 / Wikimedia Commons

井上は、動く理由は霊ではないと結論した。答えを期待する気持ち(予期意向)が、本人の気づかないうちに筋肉を動かす(不覚筋動)からだという。

コックリのわが意のごとく回転し、わが問いに応じて答えを与うるは、全く予期意向と不覚筋動とによること疑いをいれず。

同じころ、イギリスの科学者ファラデーも、テーブル・ターニングの正体は参加者自身の無意識の力だと、装置を作って確かめようとしていた[8]。

板を重ねた装置と、指を置く位置を示した19世紀の科学図
PDファラデーが、テーブル・ターニングで手が無意識に動くことを示すために作った装置の図。『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』1853年7月16日号。パブリックドメイン。 / Wikimedia Commons

何が受け継がれ、何が変わったか

コックリさんは、その後も何度も流行した。1970年代には漫画をきっかけに子どもたちの間でブームになり、学校が注意を呼びかけることもあった。精神医学の側からは、自分は霊に取りつかれたと思い込む状態や、それが周りの人にうつる例が論じられてきた[8]。ひとりかくれんぼが「コックリさんより危険な遊び」として語られたのは、こうした「やってはいけない遊び」の系譜の上にある[3]。

違いも大きい。コックリさんは何人かで集まって行い、答えが紙の上に出る。井上の説明が正しければ、答えを動かしているのは参加者たち自身だ。ひとりかくれんぼには、答えも文字盤もない。参加者は一人きりで、暗い家の中で、物音や気配を待つ。起きたことを「証言」できるのは、本人の書き込みだけだ。コックリさんでは参加者どうしが互いの手の動きを疑えたが、ひとりかくれんぼでは、疑う相手は画面の向こうの書き手しかいない。

05古い民俗に、似たものはあるか

ひとりかくれんぼの「元」として、古い呪術や民俗の名前が挙がることがある。ここでは、似ている点を確かめつつ、つながりを示す資料があるかどうかを分けて見ていく。

鬼ごとは、もと鬼追いの行事だった

かくれんぼは、鬼ごっこの一種だ。民俗学者の柳田国男は、1941年の『こども風土記』で、子どもの遊びの多くが、大人の行事や祭りの名残だと論じた。鬼ごとについては、こう書いている[10]。

これも名称が自ら語るごとく、最初は神社仏閣の鬼追い行事に、少年を参加せしめたのが起りと思われる

角と大きく開いた口を持つ、赤茶色の木彫りの鬼の面
CC0追儺(鬼やらい)の儀式に使われた鬼の面。江戸時代、木に彩色。アメリカ・フリーア美術館の展示。撮影:Daderot。CC0。 / Wikimedia Commons

同じ本には、子どもの輪の真ん中に座った子が、周りの唱え言葉を聞くうちに「地蔵様」になって受け答えをする「地蔵遊び」も出てくる。仙台近くの村では、若い大人たちもこれをしていたという[10]。

しまいには今いう催眠状態に入って、自分でなくなって色々の受返事をする。

遊びと、何かを呼び込む行事とは、もともと近いところにあった。柳田のこの見方を借りれば、「かくれんぼ」に霊を呼ぶ話が結びついたこと自体は、それほど突飛ではない。ただし、柳田の本にひとりかくれんぼの元になった遊びが書かれているわけではない。

人形に「身代わり」を託す

ぬいぐるみを自分の相手にする点からは、人形に自分の代わりを託す民俗が思い浮かぶ。雛祭りのもとになったといわれる雛流しは、人形に身のけがれを移し、水に流して清める行事として今も各地で行われている[11]。

小さな人形を乗せた円い桟俵が、川面にいくつも浮かんでいる
PD佐賀市の佐嘉神社で行われた雛流し(2007年3月3日撮影)。撮影:Ozizo。パブリックドメイン。 / Wikimedia Commons

自分の体の一部を入れたものが、離れても自分とつながり続ける、という考え方もある。イギリス(スコットランド)の人類学者フレイザーは、こうした考え方を「感染呪術」と名づけ、呪術の基本の一つに数えた[12]。

things which have once been in contact with each other continue to act on each other at a distance after the physical contact has been severed.

一度触れ合ったものは、物理的に離れたあとも、離れたまま互いに作用し続ける。

ひとりかくれんぼの話でも、ぬいぐるみに自分の一部を入れる要素が語られる[3]。似た発想は世界中の呪術にある。けれど、似ていることと、そこから生まれたことは別だ。雛流しや人形供養の伝統と、2007年の掲示板の遊びをつなぐ資料は、この調査では見つからなかった。

説根拠評価
2007年4月の2ちゃんねるのスレッドで広まった過去ログで、名前の初出(4月18日)と実況の開始(4月21日)、スレッドの急な増え方を確かめた[1][2]有力
元は関西で知られた遊び投稿者の「先輩から聞いた」と住人の「関西で有名」は掲示板内の言葉。Wikipediaの典拠は2008年のDVDで、それより前の記録は見つからない[1][3]確かめられず
最初の実況は自作自演の「釣り」part25に告白の書き込みはあるが、トリップがなく本人と確かめられない[2]確かめられず
大学のサークルが意図的に広めたWikipediaの典拠はオーディオブックだけで、裏づける資料がない[3]確かめられず
コックリさんと同じ「降霊遊び」の系譜スレッドの最初の書き込みでコックリさんと並べられ、同じ扱いで語られた[1][8]有力
雛流しや感染呪術など古い民俗が元考え方は似ているが、つながりを示す資料はない[11][12]否定的

06読む怪談から、「演じる」怪談へ

ひとりかくれんぼのいちばんの特徴は、話が読まれるだけでなく、実行されたことにある。民俗学には、これを考えるための言葉がある[13]。

ostension is the process of acting out a folk narrative

オステンションとは、民間の語り(伝説)を実際に行動として演じることだ。

オステンションの研究は、伝説が人の現実の行動を変える例を集めてきた。その身近な形が、アメリカで「レジェンドトリッピング」と呼ばれる習わしだ。若者が夜、怪談の舞台とされる墓地や廃屋や橋へ出かけ、伝説を確かめようとする[14]。

Legend-tripping is a mostly harmless, perhaps even beneficial, youth recreation. It allows young people to demonstrate their courage in a place where the actual physical risk is likely slight.

レジェンドトリッピングは、たいていは害のない、むしろ役に立つかもしれない若者の遊びだ。実際の身体の危険はおそらく小さい場所で、若者は自分の勇気を示すことができる。

同じ項目は、そのあとに、ときに不法侵入や器物損壊などの行き過ぎにつながり、地域の騒ぎになることも書いている[14]。ひとりかくれんぼは、この「肝試し」を、遠くの心霊スポットではなく自分の家の中で、しかも掲示板への実況つきで行う形だったといえる。出かける必要がないので、誰でも、その夜のうちに参加できた。2007年4月のスレッドで、次の夜に何人もが同時に挑んだのは、その手軽さをよく表している[1]。

三隅の論文が、伊藤の研究をレジェンドトリッピングの研究と結びつけて紹介しているのも、この点にかかわる[6]。オステンションの研究には、伝説を知っている人がわざと伝説どおりの出来事を演じてみせる例も含まれる[13]。実況が本当の体験なのか、演出なのか、見ている側には区別がつかない。ひとりかくれんぼの実況スレは、その区別のつかなさそのものを楽しむ場でもあった。

ぬいぐるみという相手

2021年には、雑誌『ユリイカ』の特集「ぬいぐるみの世界」に、橋迫瑞穂が「ぬいぐるみと人形の<あいだ>:「ひとりかくれんぼ」を手がかりに」を書いている[7]。題名のとおり、子どもの遊び相手であるぬいぐるみと、昔から魂の宿るものとして扱われてきた人形との境目を、この遊びから考える文章だ。この記事の調査では本文を読めていないが、ひとりかくれんぼが、ネット怪談の研究だけでなく、ぬいぐるみや人形の文化の側からも論じられていることは確かめられた。

映像と本になった「ひとりかくれんぼ」

掲示板の外へも、話はすぐに広がった。日本語版Wikipediaの記事が典拠に挙げている資料を見ると、2008年の3月から12月にかけて、ひとりかくれんぼを取り上げた心霊ドキュメンタリーのDVDが少なくとも3本出ている。同じ年には、怪談のムック本や、タレントの島田秀平の本にも項目が立った[3]。流行からわずか1年ほどで、映像と出版の題材になっていたことになる。

2009年5月23日には映画『ひとりかくれんぼ 劇場版』が公開された。監督は山田雅史、主演は川村ゆきえで、日本語版Wikipediaによれば、ケータイホラー小説の賞を受けた作品の映画化だという。2010年には『新劇場版』、2012年にも続編が作られた。これとは別に、2008年には海沼智也監督のビデオ映画『ひとりかくれんぼ』も出ている[15]。携帯電話で生まれた実況が、携帯小説を経て映画になった流れは、この時代のネット怪談らしい。

日本語版Wikipediaの記事そのものも、典拠の多くは2008年前後のDVDやムック本だ[3]。つまり、事典の記述の多くは、掲示板の記録を直接たどったものではなく、流行に乗って作られた映像や本を通したものだといえる。この記事が過去ログと研究文献を中心にしたのは、そのためだ。

07霊とは関係のない、現実の危険

ひとりかくれんぼの話には、霊がいるかどうかとは関係なく、確かな危険がいくつも含まれている。記録としてまとめる以上、ここははっきり書いておく。

  • 真っ暗な家の中を、刃物を持って動き回ることになる。つまずいたり、ぶつかったりすれば、それだけで大けがにつながる
  • 深夜に一人で、強い緊張と恐怖の中に身を置く。コックリさんでは、思い込みから心身の不調を起こした例が精神医学で論じられてきた[8]
  • 終わったあと、使った物を燃やして処分するという話が広まっている。家や庭で物を燃やすのは火事の危険があるうえ、法律で原則として禁じられている[16]
  • 「途中で何があっても隠れ場所から出ない」という決まりが語られている[3]。具合が悪くなっても助けを呼ばない理由になってしまう

何人も、次に掲げる方法による場合を除き、廃棄物を焼却してはならない。

これは廃棄物の処理及び清掃に関する法律の第16条の2で、祭りや宗教行事など、政令で決められた例外を除いて、ごみを焼くことを禁じている[16]。気味の悪くなった人形やぬいぐるみを手放したいなら、自治体のごみの出し方に従えばよい。昔から、人形を寺社に納めて供養してもらう習わしもある。

祭壇にたくさんの雛人形やぬいぐるみが並び、白い装束の神職の前に人々が座っている
CC BY-SA 4.0人形供養祭の様子。祭壇には雛人形のほか、ぬいぐるみも納められている。撮影:田頭寛。CC BY-SA 4.0。 / Wikimedia Commons

記録として残るもの

振り返ると、ひとりかくれんぼの歩みは、掲示板の記録の中にかなりはっきり残っている。2007年4月18日、コックリさんと並ぶ「危険な遊び」の一つとして名前が挙がり、21日の未明に実況が始まった。最初のスレッドは4日で埋まり、2か月足らずで25本を超えた。その途中で「自作自演だった」という、確かめようのない告白が書き込まれた[1][2]。

一方で、本当に関西で昔から知られた遊びだったのか、誰が最初に考えたのかは、分からないままだ。分からないことが、この話の強さでもあった。実況が本物かどうか確かめられないからこそ、確かめたくなった人が自分の家で試し、その書き込みがまた次の人を呼んだ。ひとりかくれんぼの「正体」があるとすれば、それは家の暗がりではなく、画面の向こうの誰かが本当にやっているのかもしれない、という感覚のほうだろう。

出典・参考資料

  1. 2ちゃんねる オカルト超常現象板「【降霊】検証実況スレ本館【交霊】」(スレッド番号1176869774, 2007年4月18日〜22日, 1001件). 5ちゃんねる過去ログ. https://kako.5ch.io/test/read.cgi/occult/1176869774/(閲覧 2026-10-06)↩
  2. 2ちゃんねる オカルト超常現象板「【降霊】検証実況スレ本館【交霊】part25」(スレッド番号1182024372, 2007年6月17日〜). 5ちゃんねる過去ログ. https://kako.5ch.io/test/read.cgi/occult/1182024372/(閲覧 2026-10-06)↩
  3. 日本語版Wikipedia「ひとりかくれんぼ」(2026年7月16日更新の版。2008年のDVD・ムック本などを典拠とする記事). https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%B2%E3%81%A8%E3%82%8A%E3%81%8B%E3%81%8F%E3%82%8C%E3%82%93%E3%81%BC(閲覧 2026-10-06)↩
  4. 伊藤慈晃「オンライン空間の宗教的体験談における「釣り師」の戦略:「ひとりかくれんぼ」を対象に」『世間話研究』28号, 世間話研究会, 2021年3月, 16–41頁(CiNii Research の書誌). https://cir.nii.ac.jp/crid/1520578316705152512(閲覧 2026-10-06)↩
  5. researchmap「伊藤慈晃」業績一覧(修士論文『オンライン・コミュニティの構造と規範の形成・崩壊―2ちゃんねる「ひとりかくれんぼ」を事例に』一橋大学大学院社会学研究科, 2014年 などを含む). https://researchmap.jp/morningdew4444(閲覧 2026-10-06)↩
  6. 三隅貴史「日本民俗学におけるインターネット研究の課題:アメリカ民俗学の学説史の検討をとおして」『現代民俗学研究』14号, 現代民俗学会, 2022年3月, 21–36頁(PDF). https://researchmap.jp/takafumi_misumi/published_papers/36237436/attachment_file.pdf(閲覧 2026-10-06)↩
  7. 橋迫瑞穂「ぬいぐるみと人形の<あいだ>:「ひとりかくれんぼ」を手がかりに」『ユリイカ』53巻1号(特集 ぬいぐるみの世界), 青土社, 2021年1月, 151–157頁(CiNii Research の書誌). https://cir.nii.ac.jp/crid/1523388080827463936(閲覧 2026-10-06)↩
  8. 日本語版Wikipedia「コックリさん」. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%81%95%E3%82%93(閲覧 2026-10-06)↩
  9. 井上円了『妖怪玄談』(明治期の著作). 青空文庫(新字新仮名). https://www.aozora.gr.jp/cards/001021/files/49375_40185.html(閲覧 2026-10-06)↩
  10. 柳田国男『こども風土記』(初出1941年). 青空文庫(新字新仮名). https://www.aozora.gr.jp/cards/001566/files/53809_49722.html(閲覧 2026-10-06)↩
  11. 日本語版Wikipedia「流し雛」. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%81%E3%81%97%E9%9B%9B(閲覧 2026-10-06)↩
  12. James George Frazer, The Golden Bough: A Study of Magic and Religion (abridged edition, 1922), Chapter 3 "Sympathetic Magic". Project Gutenberg. https://www.gutenberg.org/cache/epub/3623/pg3623-images.html(閲覧 2026-10-06)↩
  13. 英語版Wikipedia「Ostension (folklore)」. https://en.wikipedia.org/wiki/Ostension_(folklore)(閲覧 2026-10-06)↩
  14. 英語版Wikipedia「Legend tripping」. https://en.wikipedia.org/wiki/Legend_tripping(閲覧 2026-10-06)↩
  15. 日本語版Wikipedia「ひとりかくれんぼ 劇場版」. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%B2%E3%81%A8%E3%82%8A%E3%81%8B%E3%81%8F%E3%82%8C%E3%82%93%E3%81%BC_%E5%8A%87%E5%A0%B4%E7%89%88(閲覧 2026-10-06)↩
  16. 環境省 環境再生・資源循環局 廃棄物適正処理推進課長「廃棄物の処理及び清掃に関する法律第16条の2の規定に基づく廃棄物の焼却禁止の例外とされる焼却行為に対する行政処分等の適用について(通知)」2021年11月30日(法第16条の2の抄録を含む, PDF). https://www.env.go.jp/content/900479571.pdf(閲覧 2026-10-06)↩

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